出社とリモートワークを組み合わせて柔軟に働ける「ハイブリッドワーク」を導入する企業が増えています。ここではハイブリッドワークのメリットや、導入時に生じやすい課題と対策を解説します。さらに実際に制度を導入した企業の事例を紹介し、自社での制度設計や運用改善に役立つポイントまでをわかりやすくまとめました。
目次
ハイブリッドワークとは

新しい働き方として注目されるハイブリッドワーク。その特徴について解説します。
リモートワークと出社を組み合わせた働き方
ハイブリッドワークではオフィスや自宅、シェアオフィスといった多様な場所で業務が可能です。その日の業務内容や状況に応じて、社員自身が働く場所を選べる点が大きな特徴です。
注目を集めている背景
新型コロナウイルス感染症の拡大により、リモートワークが急速に普及しました。2026年現在でも、生産性の向上や柔軟な働き方などのメリットが評価され、現在の働き方として定着しています。一方で、コミュニケーションの不足といった課題も浮き彫りになりました。こうした課題を解消し、柔軟な働き方を実現できる制度として、ハイブリッドワークへの注目が高まっています。
ハイブリッドワークのメリット

以下では、ハイブリッドワークにどのようなメリットがあるのかを紹介します。
生産性向上につながる
ハイブリッドワークを導入すれば、従業員自身が業務の状況に合わせて最適な職場環境を選べます。作業に集中したい時はコワーキングスペースへ、チームメンバーと共同作業をする時はオフィスと、最も生産性が高まる場所での就業が可能です。
オフィスのコストを最適化できる
常に全ての従業員がオフィスに出社しなくなるため、オフィスの座席数を減らせます。オフィスの規模を縮小する、空いたスペースを休憩用にする、集中できるブースを作るといった有効活用もできるでしょう。
人材採用で有利になる
ハイブリッドワークは求職者にとって魅力的な勤務条件です。Z世代を中心に、多様な働き方への取り組みを重視する人は多いといえます。働きやすい環境が整備されていれば、優秀な人材が集まる可能性も高くなるでしょう。
従業員のエンゲージメント向上につながる
柔軟な働き方に対応することで、社員は会社に対して愛着や信頼を持ちやすくなり、仕事へのモチベーション向上が期待できます。子育てや介護といったライフイベントがあっても離職せずに働き続けることができれば、従業員本人だけでなく家族の生活にも良い影響が及びます。その結果、家庭内での役割分担や働き方への理解が進み、仕事に集中しやすい環境づくりにもつながります。
ハイブリッドワークで生じやすい課題

ハイブリッドワークはメリットが多い反面、導入企業が抱えやすい課題もあります。次に、代表的なものを紹介します。
コミュニケーション不足と情報格差
「出社組」と「リモートワーク組」が混在する環境では、働き方の違いから温度差が生じやすく、コミュニケーションが希薄になる傾向があります。特に、職場の雰囲気や雑談を通して生まれる何気ないやり取りは、リモートワークでは共有されにくいものです。その結果、出社している従業員が意思決定の中心となりやすく、リモートワーク組の意見が反映されにくい状況が生じることもあります。さらに情報伝達が十分でない場合、プロジェクトの進捗や他部署の動きが見えにくくなり、結果として情報格差が広がりかねません。
勤怠管理の煩雑さ
ハイブリッドワークでは、出社とリモートワークが混在するため、勤怠管理が複雑になりがちです。特にリモートワークでは、勤務開始時間や欠勤の有無、営業活動などの状況を把握しにくく、実態が見えにくくなります。その結果、確認や修正作業が増え、労務担当者の負担が大きくなることも少なくありません。こうした課題に対応するには、オフィス勤務とリモートワークの勤怠を一元的に把握・管理できる勤怠管理システムの導入が求められます。
セキュリティの確保
ハイブリッドワークの導入にあたっては、広範囲をカバーするセキュリティ対策が欠かせません。リモートワークのメンバーが社内システムやクラウドサーバー上の情報にアクセスする機会も増えるためです。その分、外部からの不正アクセスや機密情報の漏洩といったリスクが高まる可能性があります。働く場所を問わず安全に業務を行うためには、アクセス管理や情報保護の仕組みを適切に整える必要があります。
ハイブリッドワーク導入を成功させるポイント

次に、ハイブリッドワークで生じやすい課題をカバーして導入するためのポイントを解説します。
コミュニケーションと勤怠管理の仕組みを整える
コミュニケーションの課題を解消するには、TeamsやZoomなどのWeb会議システムやビジネスチャットなどのツール活用が欠かせません。加えてモチベーションを維持し、チームの方向性を共有する機会として、定期的に出社日を設けるのも有効です。出社時にはフリーアドレスを採用したり、余剰スペースをミーティングや休憩スペースとして活用したりすることで、社員同士が自然に交流しやすい環境を整える企業も増えています。
一方で出社とリモートワークをシームレスに管理するためには、勤怠管理システムへの一定の投資が必要になります。全てを一度に整えようとするのではなく、優先度の高いものからスモールステップでツールを導入していく姿勢が現実的といえるでしょう。
セキュリティ教育や運用ルールを整備する
社外からシステムにアクセスする社員が増えるハイブリッドワークでは、情報漏洩リスクを想定したセキュリティ教育の徹底が欠かせません。パスワード管理の基本やVPN・クラウドサービスの正しい利用方法、社内規程の遵守といったポイントを、日常業務の中で自然に実践できるよう、研修などを通じて習慣化していくことが重要です。また出社とリモートワークそれぞれの働き方に関するルールを明確にし、業務内容ごとの出社基準や評価方法を整理しておくことで、社員の不安を軽減し、制度の定着を後押しできます。
マネジメント体制と社員の意識醸成を強化する
ハイブリッド環境でも安定して成果を出せるよう、マネージャーには進捗把握や成果評価の考え方をあらかじめ共有し、適切なマネジメントが行えるようにしておくことが重要です。あわせて1on1や定期ミーティングをオンラインで計画的に取り入れることで、心理的安全性を確保し、社員のエンゲージメント維持につなげられます。さらに自律的に働く社員を支援するため、業務プロセスの整理やWeb会議のマナーなどの教育や意識醸成を継続的に行っていくことが求められます。
ハイブリッドワーク導入の成功事例

他社の取り組みを通じてハイブリッドワークの導入効果や対応方法を具体的に知り、自社に合った運用のポイントや注意点を押さえましょう。
リコーITソリューションズ株式会社
リコーITソリューションズ株式会社では、2017年から本格的にリモートワークを導入し、早い段階から柔軟な働き方の定着に取り組んできました。業務の特性に応じて、対面での実施が望ましい業務では出社を推奨しつつ、それ以外は社員が柔軟に働き方を選べる運用を行っています。
■ハード面の取り組み
インターネット回線の高速化やクラウド環境の整備を進め、場所を問わず業務が行える基盤を構築しました。あわせて業績に応じた支援金を支給し、リモートワークに必要な環境整備を後押ししています。さらに、オンライン研修の拡充により出張の必要性を減らし、全国どこからでも受講できる体制を整えました。
■ソフト面の取り組み
議論や意思決定が求められる業務は出社して、日常的な業務はリモートワークといったように、目的に応じて働く場所を選ぶルールを明確化しました。部署ごとに定期的な出社日を設けることで、コミュニケーションの活性化や心理的安全性の確保にも取り組んでいます。また、新卒社員研修では対面とオンラインを半分ずつ組み合わせたハイブリッド方式を採用し、配属後にリモートワーク中心となる社員が多いことを踏まえ、オンライン研修の質向上にも力を入れています。
参考:成功事例から学ぶ「テレワーク導入・定着」のための取組│厚生労働省
アフラック生命保険株式会社
アフラック生命保険株式会社では、2020年にリモートワークを本格導入し、2021年以降はハイブリッドワークへと移行しました。コロナ禍をきっかけにリモートワークを全社的に推進しつつ、現在は業務特性に応じて出社とリモートワークを組み合わせる運用を行っています。社員が「最適な場所」を自律的に選べるようにする方針を掲げ、制度と運用ルールの両面から環境整備を進めてきました。
■ハード面の取り組み
全国どこからでも安全に業務が行えるよう、ゼロトラスト型のセキュリティ基盤を整備しています。あわせて、Web会議環境や電子申請などのデジタルワークフローを全社で統一し、場所に依存しない業務体制を構築しました。リモートワークに必要な備品やネット環境整備への補助制度も設け、社員が働く場所を柔軟に選べるよう支援しています。
■ソフト面の取り組み
業務内容に応じて出社とリモートワークを使い分けるルールを明確化し、生産性とコミュニケーションのバランス確保を図っています。管理職向けにはリモートマネジメント研修を実施し、メンバーの状況把握や心理的安全性の確保を強化しました。さらにペーパーレス化や押印廃止を徹底することで、働く場所に左右されない業務運用を定着させています。
参考:成功事例から学ぶ「テレワーク導入・定着」のための取組│厚生労働省
日立製作所
日立製作所では、2016年にリモートワークを一部導入し、2020年に全社へ拡大する形でハイブリッドワークへと移行しました。コロナ禍以前から「場所にとらわれない働き方」を掲げ、柔軟な勤務制度の整備を進めてきた点が特徴です。2020年以降は原則リモートワークを軸としつつ、イノベーション創出の場としてオフィスの役割を再定義し、働く場所の使い分けを進めています。
■ハード面の取り組み
VDIやクラウドの利用拡大により、社外からでも安全に業務を行える環境を構築しました。全国の拠点でフリーアドレス化を進め、対面での議論や協働がしやすいコラボレーションスペースを拡充。また業務環境の統一を目的にデジタルツールの社内標準化を行い、場所を問わず同じ環境で働ける体制を整えました。
■ソフト面の取り組み
業務プロセスを見直し、資料作成や会議のオンライン化を積極的に推進しています。さらに部門ごとに出社する目的を明確にし、対面でこそ価値を発揮する創造的な業務に時間を使えるよう業務設計を再構築しました。社員の自律性を重視した働き方マネジメント研修も実施し、ハイブリッド環境に適したマネジメントの定着を図っています。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社では、2010年代前半からリモートワークを導入し、2020年以降はほぼ全職種でハイブリッドワークを実現しています。「100人いれば100通りの働き方」という考え方を掲げ、勤務場所や時間、雇用形態などに多様な選択肢を持たせた制度を、早い段階から会社全体に根付かせてきました。柔軟な働き方を特別な施策ではなく、組織運営の前提として位置付けている点が特徴です。
■ハード面の取り組み
kintoneをはじめとする自社ツールを活用し、業務の見える化や遠隔でのコラボレーションを強化しています。社内のIT環境をクラウドベースへ移行することで、場所を問わずアクセスできる業務基盤を整備しました。さらに、全国から利用できる拠点やワークスペースを柔軟に活用できる仕組みを導入し、社員が自分に合った働く場所を選べる環境を整えています。
■ソフト面の取り組み
業務プロセスを全社で可視化し、リモートワークでもチームワークを維持できる運用を徹底しています。勤務時間や副業、出社頻度などを個人が選択できる制度を採用することで、働き方の自由度を高めました。Web会議のルールや情報共有のテンプレートを整備し、リモートワークにおける業務の属人化を防ぐ工夫も行っています。
ハイブリッドワーク導入を成功させるために

ハイブリッドワークは、出社とリモートワークを組み合わせることで、柔軟な働き方を実現できる制度です。導入によって生産性の向上やオフィスコストの最適化、優秀な人材の確保といった効果が期待できます。その一方で、コミュニケーション不足や勤怠管理の煩雑さなど、運用面での課題が生じやすい点も見逃せません。こうした課題を踏まえたうえで、本記事で紹介したポイントや企業の成功事例を参考にしながら、自社の業務特性や組織文化に合った運用方法を検討していくことが重要です。
