企業のDX推進において課題となりやすいのが、古い仕組みで運用されるレガシーシステムです。保守・運用費用の増大やブラックボックス化、障害リスクなど多くの課題を抱えており、放置すれば競争力低下や大きな損失につながりかねません。本記事では定義・問題点・脱却方法を整理します。
目次
レガシーシステムとは

まずレガシーシステムの意味と特徴について整理しておきましょう。
保守や改修が難しくなったシステムのこと
レガシーシステムとは過去の技術や仕組みで構築され、保守や改修が難しくなっているシステムを指します。老朽化や複雑化によって保守・運用の負担が増大し、結果として業務改善やDXの足かせになります。
レガシーシステムの代表例
金融機関で広く導入されているメインフレームという大型コンピュータや、60年以上前に生まれたプログラミング言語であるCOBOLで構築されたシステムは、レガシーシステムの代表例として挙げられることがあります。ただし近年構築されたシステムであっても、サポートが終了している・終了予定のもの、複雑化により特定の担当者しか利用できないもの、事業部門ごとに構築されカスタマイズが難しいものは、レガシーシステム化している可能性があります。
こうしたケースではシステムの保守や設計が一部の担当者に依存しやすく、ブラックボックス化しやすい傾向にあります。結果として最新技術への対応が困難になり、企業の競争力や成長性を損なうリスクも否めません。
2025年の崖問題について

レガシーシステムのリスクを理解するうえで重要なのが、経済産業省が提唱した「2025年の崖」です。これは2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」に登場した言葉で、レガシーシステムを放置することで起きうる問題を示したものです。同レポートでは年間最大12兆円の経済損失が生じると予測していました。当初予測された規模の経済損失が顕在化しているとは言い切れないものの、レガシーシステムの問題そのものが解消されたわけではありません。だからこそ、今のうちに対策を講じることが求められます。
参考:経済産業省「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」
レガシーシステムが抱える問題点

レガシーシステムを使い続けると、企業にはさまざまな問題が生じます。
ブラックボックス化
レガシーシステムが抱える問題の中でも、最も根本的といえるのがブラックボックス化です。仕様書やドキュメントが揃っていない、または存在しないケースも多く、システムの全体像を誰も把握できない状態に陥りがちです。社内の開発職の退職や高齢化で知見が失われ、保守・運用の属人化が進むと、担当者が休職・退職した際にシステムの維持や管理が困難になります。
保守・運用コストの増大
メンテナンスを継続すればレガシーシステムを使い続けることはできますが、コストは増大する一方です。ITに関する予算の多くがシステムの保守に割かれてしまい、DXなど新しいプロジェクトへの投資が縮小しかねません。レガシーシステムの保守・運用を続けることは、コストの増大にとどまらず、企業の成長にも悪影響を及ぼす可能性があります。
セキュリティのリスク
レガシーシステムは最新のセキュリティ基準を満たしていない可能性が高く、セキュリティ更新プログラムが提供されないまま防御力が低下していきます。サイバー攻撃への脆弱性やデータ漏洩のリスク増大など、セキュリティ面で大きな脅威にさらされる点も見逃せません。
システム障害のリスク
システムの老朽化や処理能力不足から、膨大なデータ処理などを行う際に停止する可能性があります。業務停止による事業への甚大な影響や、顧客・取引先へ影響が及ぶリスクも抱えています。
他システムとの互換性
レガシーシステムは、そもそも他システムとの連携を想定して実装されていないため、部門間での業務連携がスムーズに機能しません。クラウドサービスやIoTなど最新技術の導入もできず、技術革新やビジネスの柔軟性が阻害されます。
競争力の低下
現代のビジネスではデータを活用した戦略が不可欠ですが、古いシステムではそれが実現できず、競争力の低下を招きかねません。
1. 大量の顧客データを分析して個別ニーズに応じたサービスを提供できず顧客満足度が下がること
2. データに基づいた経営判断ができないため競合企業との差が広がること
3. 新しい顧客を獲得する競争で不利になること
このような要因から、デジタル変革が進まず競争力低下の悪循環に陥ります。
レガシーシステムからの脱却が進まない理由

レガシーシステムの問題点は多くの企業が認識しているものの、実際に刷新に踏み切れている企業は少ないのが現状です。その背景にはどのような理由があるのでしょうか。
コストと予算の問題
システム刷新には数千万〜数億円の投資が必要で、中小企業では予算確保が困難なケースも多くあります。ROI(投資対効果)が見えづらいうえ、「動いているシステムにお金をかけにくい」という経営判断から、刷新が先送りになりがちです。
業務への影響とリスクへの懸念
刷新中の業務停止リスクやシステム移行の失敗によるデータ損失の恐れ、従業員の新システム習熟にかかる時間とコストなども、移行をためらわせる要因です。「移行に失敗すれば事業への影響が大きい」という懸念から、新システムへの移行に踏み切れない企業は少なくありません。
経営層の理解不足
経営層とIT部門の間で、IT投資の必要性に関する認識が十分に共有されていないケースもあります。新しい技術への投資に対する理解も不十分で、短期的なコスト増加を嫌って先送りする企業も多いのが実態です。
ベンダー依存の企業体質
日本企業ではシステム開発をベンダー企業に依存する構造が定着しており、これがレガシーシステム脱却の障壁となっています。ユーザー企業側にシステムの知識が蓄積されず仕様がブラックボックス化し、特定ベンダーにしか保守できない状態に陥りがちです。結果として乗り換えが困難になり、高額な保守・運用費用を払い続けることになります。
レガシーシステムから脱却する方法

レガシーシステムからの脱却方法は大きく分けて「マイグレーション(移行)」と「モダナイゼーション(刷新)」の2つです。また、これらとは別に「クラウド活用」も脱却手段としてよく取り上げられます。ただしクラウド活用はどちらか一方に限られるものではなく、マイグレーション・モダナイゼーションの双方に組み合わせて適用できるアプローチです。
マイグレーション(移行)
既存システムの構造や機能はそのままに、ハードウェアやソフトウェアを新しい環境へ移行する方法です。比較的コストとリスクが低く、短期間で実施できる点が特徴です。ただし、ブラックボックス化や保守・運用コストの増大といったレガシーシステムの根本的な問題は解決しません。「とりあえず動く環境を確保したい」という場合に有効ですが、将来的にはモダナイゼーションも検討が必要になります。
モダナイゼーション(刷新)
システムの構造から見直し、最新技術で作り直す方法です。業務プロセスの見直しも同時に実施でき、DX推進やビジネス変革につながります。コストと時間はかかるものの、一気に全て刷新するのではなく、重要度の高い部分から段階的に進めるのが現実的です。
主な手法として、既存コードを書き直す「リライト」、ゼロから構築する「リビルド」、パッケージソフトに置き換える「リプレース」などがあります。高度な技術と複雑なプロジェクト管理が求められる点も念頭に置いておきましょう。
クラウド活用
近年ではシステム移行や刷新を進める際のアプローチとして、クラウド活用を検討する企業が増えています。クラウド活用はレガシーシステムからの第三の脱却方法というより、マイグレーションやモダナイゼーションを進める際に用いられるアプローチの1つです。
既存のシステムをクラウド環境へ移行する方法には、既存システムをそのまま移す「リフト&シフト」と、クラウド前提で作り直す「クラウドネイティブ化」の2パターンがあります。サーバー管理の負担軽減、拡張性の向上、災害対策の強化などのメリットがあり、初期費用を抑えながら従量課金で保守・運用コストを最適化できます。
レガシーシステム脱却には自社の現状把握から

レガシーシステムを放置すればコストの増加や競争力低下につながります。まずは保守・運用費用や属人化の状況を棚卸しすることが第一歩です。完璧な刷新を目指すよりも、小さな改善から段階的に進めていくことが現実的な脱却への道といえます。
