ワークライフバランスの取り組み事例│制度を浸透させるポイント

ワークスタイル

ワークライフバランス施策を機能させるには、制度設計だけではなく、現場への浸透が欠かせません。ここでは他社のワークライフバランスに関する取り組み事例を通して、働く時間の見直しや柔軟な働き方、仕事とプライベートの両立支援といった施策をタイプ別に整理します。施策を導入した背景や運用上の工夫にも触れながら、自社の制度設計や見直しのヒントを探っていきましょう。

ワークライフバランス施策で企業が得られる効果と全体像

ワークライフバランスのイメージ

ワークライフバランス施策を適切に設計・運用することで、企業側には次のような効果が期待できます。

<ワークライフバランス施策がもたらす効果>
・人材の定着/離職防止につながる
・生産性/業務効率の向上につながる
・採用力/企業イメージの向上につながる

こうした点から、ワークライフバランスは中長期的な経営基盤を支える重要な取り組みとして位置づけられます。またワークライフバランスの取り組みは、次の4つのタイプに整理できます。

<ワークライフバランスの取り組み 4つのタイプ>
①働く時間を見直す
②柔軟な働き方を取り入れる
③仕事とプライベートの両立を支援する
④業務の進め方を見直す

次章では上記のタイプ別に、実際に企業がどのような取り組みを行っているのかを事例で紹介します。自社でも参考にできるポイントを探っていきましょう。

【ワークライフバランス取り組み事例】①働く時間を見直す

ノートパソコンで作業をする人

ワークライフバランス施策の第一歩として検討しやすいのが、働く時間の見直しです。大がかりな制度改定を行わなくても、労働時間の管理方法や運用ルールを工夫することで、現場の負担を軽減できるケースは少なくありません。ここでは、働く時間の見直しによって成果を上げた企業の事例を紹介します。

株式会社デンソーITソリューションズ(東京都)

業種:IT・システム開発
従業員:約1,300名

取り組みの背景
サービス残業や長時間労働が常態化するリスクがあり、従業員の健康悪化やコンプライアンス面の懸念が顕在化していた。

具体的な取り組み
第三者的立場の「適正労働時間管理者」を設置。残業・休日出勤は事前申請制とし、打刻時間と残業申請の乖離がある場合は注意喚起を行うなど、運用ルールを徹底した。

得られた効果
サービス残業の抑止と労働時間の適正化が進行。従業員が「無理をしない働き方」を選択しやすくなり、健康面への安心感が高まった。

<この事例から学べるポイント>
制度を整備するだけでなく、第三者の視点によるチェック体制を組み合わせた点が特徴です。労働時間管理を現場任せにせず、運用ルールを徹底することで、長時間労働や健康リスクを未然に防いでいます。大規模な体制構築が難しい場合でも、一部の部署やチーム単位で残業時間の目安を設定し、定期的に確認する仕組みから始める形でも応用可能です。

参考:デンソー「ワークライフバランス制度紹介(キャリア採用向け)

SCSK株式会社(東京都)

業種:情報サービス業
従業員:11,689名

取り組みの背景
IT技術者を中心に長時間労働が常態化し、疲労の蓄積や自己研鑽の時間不足が課題となっていた。働き方を見直さなければ、生産性や人材定着に悪影響が出るという危機感が社内で共有されていた。

具体的な取り組み
有給休暇取得率100%、平均残業時間20時間以下といった明確な数値目標を掲げ、管理職を含めた全社的な意識改革を推進した。働き方の見直しを個人任せにせず、組織全体で取り組む体制を整えている。

得られた効果
平均残業時間は大幅に削減され、有給休暇取得率も向上。総労働時間を減らしながら増収増益を達成し、働き方改革と生産性向上の両立を実現した。

<この事例から学べるポイント>
柔軟な働き方の導入に加えて、評価制度やマネジメントのあり方まで同時に見直した点が、制度の形骸化を防いでいます。働き方に関する目標を可視化し、部署単位で運用状況を確認していく方法は中小企業でも取り入れやすいでしょう。

参考:内閣府 仕事と生活の調和推進室 「社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集
(SCSK株式会社の事例:p.14)

 

【ワークライフバランス取り組み事例】②柔軟な働き方を取り入れる

資料を確認する人

働く時間の見直しに加えて、場所や勤務形態の選択肢を広げることも、ワークライフバランスを支える重要な要素です。ここではフレックスタイム制や短時間勤務など、柔軟な働き方を取り入れることで、従業員の定着や働きやすさの向上につなげた事例を紹介します。

株式会社お佛壇のやまき(静岡県)

業種:小売業
従業員:35名

取り組みの背景
育児期を迎えた従業員が働き続けにくく、出産や家庭事情をきっかけとした離職が課題となっていた。

具体的な取り組み
勤務時間を一律にせず、6時間・7時間など複数の勤務区分を設定。家庭状況に応じて柔軟に選択できる仕組みを整えた。また定時退社と年次有給休暇の取得を徹底し、「休むことが前提」の業務設計へと転換している。

得られた効果
定時退社と有給休暇の取得が定着し、従業員満足度が向上。その結果、接客品質が改善し、業績は約40%向上するなど、働き方改革と業績向上の両立を実現した。

<この事例から学べるポイント>
注目したいのは勤務時間に複数の選択肢を用意し、働き方を選べる状態を整えた点です。勤務時間に幅を持たせることで、従業員が無理なく働き続けられる環境を作り、結果としてサービス品質や業績の向上につなげています。

参考:内閣府 仕事と生活の調和推進室 「社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集
(株式会社お佛壇のやまきの事例:p.15)

三州製菓株式会社(埼玉県)

業種:食品製造業
従業員:250名

取り組みの背景
結婚や出産をきっかけとした離職が多く、人材の定着が大きな課題となっていた。また特定の担当者に業務が集中し、休みを取りづらい職場環境も問題視されていた。

具体的な取り組み
フレックスタイム制や短時間勤務など、柔軟な働き方を整備すると同時に、多能工化(1人が複数の業務をこなせるようにすること)を推進。業務を分散させることで、誰かが休んでも現場が回る体制作りに取り組んだ。

得られた効果
有給休暇の取得が進み、育児期を含めた長期就業が可能となった。女性管理職も増加し、組織の安定性と生産性の向上につながっている。

<この事例から学べるポイント>
柔軟な勤務制度の整備と、業務の属人化解消を同時に進めた点がポイントです。働き方だけを変えるのではなく、業務の進め方も見直すことで、現場に無理なく制度を定着させています。

参考:内閣府 仕事と生活の調和推進室 「社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集
(三州製菓株式会社の事例:p.20)

 

【ワークライフバランス取り組み事例】③仕事とプライベートの両立を支援する

子育て中の女性

育児や介護といったライフイベントを理由に、働き続けることを諦めてしまうケースは少なくありません。ここでは、仕事とプライベートの両立を支える仕組みを整え、人材の定着につなげている企業の事例を紹介します。

社会福祉法人あいのわ福祉会(滋賀県)

業種:福祉・介護
従業員:120名

取り組みの背景
産休・育休制度自体は整備されていたものの、管理職側の理解不足により、制度が使いづらく、離職防止につながっていない状況が課題となっていた。

具体的な取り組み
育児・介護と仕事の両立をテーマにした独自のガイドブックを作成し、全職員に配布。さらに管理職向けの研修を実施し、制度運用の判断を現場任せにしない体制を整えた。短時間勤務や休暇制度を「特別対応」ではなく、「通常の運用」として位置づけた点も特徴といえる。

得られた効果
育児休業からの復職率は3年連続で100%を達成。職員1人当たりの残業時間も約50%削減され、定着率や職場満足度の向上につながっている。

<この事例から学べるポイント>
この事例では、制度が活用されない原因を「現場の判断」や「個人の事情」に委ねず、管理職の理解と運用ルールの統一に踏み込んでいます。両立支援を特別な配慮ではなく日常の運用として位置づけることで、制度を無理なく職場に根づかせました。

参考:TOKYOはたらくネット「社会福祉法人あいのわ福祉会

小林記念病院(愛知県)

業種:医療
従業員:900名

取り組みの背景
看護師の大量退職を経験し、人材の確保と医療の質を両立させることが急務となっていた。

具体的な取り組み
院内保育所の設置や育児短時間勤務制度を整備。さらに「オタガイサマ・システム」という独自の理念を掲げ、休業・復職・自己啓発を組織全体で支える考え方を共有した。休暇取得を個人任せにせず、チームでフォローする体制を構築している。

得られた効果
育児・介護と仕事の両立が可能となり、看護師の定着率が向上。職員満足度の改善が、医療サービスの安定的な提供にもつながっている。

<この事例から学べるポイント>
この事例では、制度の整備に加えて「支え合う」という理念を明確に示した点が特徴です。両立支援を特例的な対応ではなく、組織全体の文化として位置づけることで、制度を現場に根づかせています。休暇取得をチームでフォローする考え方や、支援の方針を言語化して共有する取り組みは、企業規模に左右されず取り入れやすく、制度定着を後押しする実践的なアプローチといえるでしょう。

参考:愛知県「子育てしながらでも働きやすい環境をつくっています

【ワークライフバランス取り組み事例】④業務の進め方を見直す

面談する上司と部下

働く時間や制度を整えても、業務の進め方が変わらなければ、ワークライフバランスは定着しません。ここでは、業務の属人化を見直し、役割分担や情報共有の工夫によって、無理のない働き方を実現している企業の事例を紹介します。

株式会社ウィルド(兵庫県)

業種:IT・Web制作
従業員:15名

取り組みの背景
少人数組織ゆえに業務が属人化しやすく、特定の従業員に業務が集中することで長時間労働が常態化していた。休暇取得に対する心理的なハードルも高く、疲弊やモチベーション低下が課題であった。

具体的な取り組み
業務内容や進捗状況を全社員で共有できる仕組みを整備。有給休暇の取得率を毎月全員で共有し、状況を可視化した。また社長と社員が1対1で定期的に面談を行い、業務量や進め方をその都度調整する運用を徹底している。

得られた効果
年次有給休暇の取得率は68%を超えるまでに向上。社内のコミュニケーションが活性化し、相互にフォローし合うことが当たり前の職場風土が形成された。

<この事例から学べるポイント>
働き方の改善につながった背景には、業務状況や休暇取得状況を「見える化」した点があります。新たな制度を導入しなくても情報を共有し、対話を重ねることで少人数組織でも無理のない働き方を実現できることを示しています。

参考:TOKYOはたらくネット「株式会社ウィルド

株式会社オーシスマップ(兵庫県)

業種:測量・地図情報
従業員:20名

取り組みの背景
業務の進捗状況や個々の予定が把握しづらく、突発的な残業が発生しやすい状況にあった。また休暇を取りづらい雰囲気があり、働き方の見直しにも課題があった。

具体的な取り組み
全社員のスケジュールを共有し、業務予定だけでなく家庭行事や私用も記載する運用を導入。さらに「家族の日」として、社員自らがノー残業デーを設定し、業務配分を事前に調整する文化作りを進めた。

得られた効果
残業時間が大幅に削減され、育児休業の取得率・復職率は100%を維持。社内コミュニケーションが活性化し、採用面でも好影響が生まれている。

<この事例から学べるポイント>
この事例で特徴的なのは、業務と私生活を切り分けるのではなく、予定共有の範囲をあえて広げた点です。事前に状況を共有することで無理のない業務調整ができるようになり、働きやすい環境作りにつながりました。

参考:内閣府 仕事と生活の調和推進室 「社内におけるワーク・ライフ・バランス浸透・定着に向けたポイント・好事例集
(株式会社オーシスマップの事例:p.17)

ワークライフバランスの取り組みを浸透させるポイント

研修のイメージ

ワークライフバランスの施策は、制度や取り組みを導入するだけでは定着しません。ここでは事例から得た学びを自社の取り組みに落とし込み、現場に浸透させていくための考え方と実践のポイントを整理します。

意識と文化から変えていく

ワークライフバランスの取り組みは、制度設計だけで完結するものではなく、職場の意識や文化の影響を大きく受けます。経営トップがワークライフバランスを経営戦略の一部として位置づけ、繰り返しメッセージを発信していくことが重要です。

併せて研修や社内資料、好事例の共有などを通じて、従業員の理解を深めていくことで、現場の受け止め方は次第に変わっていきます。制度を「一部の人のためのもの」と捉えるのではなく、「誰もが使う前提」として浸透させていく姿勢が、定着の土台となります。

数値と実例で状況を共有する

ワークライフバランス施策の定着には、数値や事実をもとに状況を共有していくことも有効です。残業時間や有給休暇取得率、制度の利用人数などを定期的に可視化することで、取り組みの進捗や現在地を客観的に把握しやすくなります。

「残業は1ヵ月〇時間以内」など具体的な目安を設定し、ツールを活用して進捗を確認できる状態を整えることも有効です。さらに制度を実際に活用した社員の声や事例を紹介することで、利用に対する心理的なハードルを下げ、職場全体への浸透を後押しします。

ワークライフバランスの取り組みは改善を続けることが大切

笑顔のビジネスマン

ワークライフバランスの取り組みは、制度を整えること自体がゴールではありません。大切なのは、日々の運用を前提に、制度が無理なく現場に根付く状態を目指すことです。

数々の事例からも分かるように、特別な制度改定を行わなくても取り組めるポイントは数多くあります。まずは自社の課題や規模に合わせて、一歩踏み出しましょう。小さな改善の積み重ねが、従業員の働きやすさを高め、結果として人材定着や組織力の向上につながっていきます。

生産性DX編集部

生産性DX編集部は、生産性向上に向けたDX活用の知見を、わかりやすく発信しています。経営や組織、働き方、テクノロジーまで幅広く取り上げ、生産性向上に取り組むすべての人に、中立的な視点で考えるきっかけや実践のヒントをお届けします。

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